ベルギーの郷土菓子 20

リエージュ・ゴールフとガレット・ラックモン(Gaufres de Liege & les Galettes Lacquemant)

ベルギーといえば、ダイヤモンド、ビール、ゴーフルですね。今回は、その知名度に比べあまり知られていない「ゴーフル」の起源についてです。ベルギー人にとり、ゴーフルといえばリエージュ州の主都リエージュのゴーフルと決まっているため、取り立てて「リエージュの」と冠をつけず単にゴーフルと呼びます。

こんがりとキツネ色に焼きあがったアツアツのゴーフル。弾力のある甘い生地とシャリっと歯応えのある真珠砂糖、立ちのぼる甘いバニラの香り。シンプル極まりないのですが、この三位一体の組み合わせがなんともいえません。特に冬の寒い日、街角に漂う甘いゴーフルの香り。人々はまるで花を探すミツバチのようにゴーフル屋に引き寄せられます。

入っていなかった真珠砂糖!

ベルギーの至るところで売られているゴーフルには必ず真珠砂糖が入っています。だからこそ、ユニークで美味しいのである(フムフムなるほど)。ところが、ところがです、歴史をひもといてみれば、13世紀に生まれたゴーフルには真珠砂糖は入っていなかったのです!

ゴーフルの起源は古く、古代ギリシャやエジプトまで遡ります。当時は粉と水で練った粥状のものを、熱い石の上で焼き食料としていました。13世紀になると鍛冶業が発達。鍛冶屋が長い柄をつけた鉄の型を考えました。長方形の2枚の鉄板の間に粥を流し、上下をひっくり返して焼くという発明は、時間の節約という意味で画期的なものでした。小麦粉以外にもそば粉や栗粉、ドングリ粉そしてジャガイモの卸したものまで使われました。18世紀に入り、卵やミルク、蜂蜜、シナモンなどが加えられ、ゴーフルが甘い嗜好品になりました。

リエージュ・ゴーフル保存協会

リエージュにリエージュ・ゴーフル保存協会があり、会長ご夫妻にお話を伺いました。「真珠砂糖入りのゴーフルがリエージュ・ゴーフルと定着してしまった現在ですが、少し残念に思っています。なぜなら昔からリエージュで作っていたゴーフルには真珠砂糖ではなく、シナモンを入れていたからです。そしてその理由にも歴史的背景があるのです」

リエージュはフランク王国分裂以来、皇子司教が支配する司教国となりフランス革命まで続きました。皇子司教はバチカンの法王に次ぐといわれたほどの権力を持っていました。“聖職者はうまいもの好き”といわれるように、歴代の皇子司教は大変な美食家だったため、司教宮殿の台所には世界中の珍味が集まり、当時は高価な香辛料だったシナモンも豊富にありました。その影響で、昔からリエージュ地方ではシナモンを何にでも使い、おのずからゴーフルにもたくさんのシナモンを入れたわけです。

真珠砂糖がシナモンにとって代わった理由

それは単なるコストの問題でした。ベルギーは昔から砂糖大根から良質の砂糖を生産、輸出していました。ゴーフルがデザートとして民間でも食べられるようになると、高価なシナモンの代わりに安価な砂糖を入れることが考えられました。

では何故グラニュー糖ではなく真珠砂糖だったのでしょう? この地方では昔からクラミック(真珠砂糖と乾しブドウ入り)とクラックラン(真珠砂糖のみ)と呼ばれるパンがありました。ですからゴーフルにも真珠砂糖を使ったということです。食感にもこだわるグルメなリエージュ人なのでしょう。というわけで、真珠砂糖入りのゴーフルの歴史はまだ浅いのです。

まだある名物

年に2回あるリエージュの移動遊園地で、必ず長蛇の列ができる屋台があります。リエージュのもう一つの名物、ガレット・ラックモンを売る店です。これはラックモンさんが考えだした、そば粉で作った大きな楕円形の薄いガレットのこと。バター、卵、イースト、ミルク、シナモンスティック(またはシナモン粉)、塩で作ります。

作り方は簡単。卵大に丸めた生地をめん棒でさっと延ばし、鉄板で焼きます。焼きあがった熱々のガレットの厚みに縦にナイフを入れ生地を半分に開き、中に特製のシロップを塗りさっと閉じます。作った端から飛ぶように売れるので、職人の手は休むことがありません。一枚が1,30ユーロ、6枚で 6,50ユーロのガレット。大体の人が6枚以上を買っていくには驚きました。

このガレットの美味しさの秘密はリエージュ・シロップにあります。梨とリンゴを銅釜で12時間も煮てピューレを作り、それを4時間かけてゆっくりと濾しさらに煮詰めて作る、蜂蜜より少し硬めの一種のジャムです。8キロの果物からわずか1キロのシロップしかできません。添加物なし、また果糖のみなので糖尿病の人でも食べられるという有難さ。

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シナモン入りのゴーフルとガレットの味

保存協会の会長がシナモン入りのゴーフルを焼いてくれました。最初の一口…。柔らかい食感なので、真珠砂糖入りに慣れた舌には何となく頼りなく…。

でも甘くとろける生地とシナモン独特の上品で繊細な美味しさのハーモニーに、シナモンの価値を再認識。司教が好んだ意味が分かったような気がしました。

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