ベルギーの郷土菓子 14

マリー・敷香のゴーフル(gaufres de MARIE SISKA)

ベルギー北海沿岸の町の一つに、クノック・ヘイスト(Knokke-Heist)があります。なかでもズットとクノック地区は、ベルギー人にとって最高級住宅地の代名詞となっています。ズットに邸宅や別荘を持っていることがステータスシンボルで、夏や冬のバカンスをクノックで過ごすのはとてもお洒落なことなのです。特にクノックの住宅街は壁を白く塗ることが義務付けられているため、四季折々の花や庭の緑が良く映え、この辺りを「北海の庭園」と呼ぶのもうなずけます。

メインストリートにはベルギーや世界各国の高級ブティック、多くのレストランとティールームが並び、道行く人たちのファッションもいかにもハイソサエティ!日本の軽井沢というところでしょうか。

豪邸に加え、この町の誇りは砂丘です。潮の満ち引きにより刻々と変わる風景。砂丘が紫の花で埋まる夏や、珍鳥が冬を越す秋・冬など、北海で一番美しい自然の宝庫といわれています。ブリュッセルからわずか100キロという便利さも手伝い、車で通勤する人もたくさんいます。

クノックの名物女傑

クローバー型をした「シスカ母さんのゴーフル(mother Siska)」を知らないベルギー人はいません。このゴーフルを売り出した肝っ玉母さんのサクセス・ストーリーをご紹介しましょう。

2人の夫に先立たれたフランシスカ(Francisca)は、粉引きだった夫の水車の傍で小さな木賃宿を営んでいました。粉引き職人が必要だった彼女のところへ、パン職人で元粉引きのルイ(Louis)が働きに来ました。その後彼女はルイと3度目の結婚をすることになります。2人の結婚は実益を優先したものでしたが、当時はこんなことは珍しいことではありませんでした。心温かいルイは、彼女が2回の結婚で得た10人の子供達をわが子の様に慈しんで育てました。フランシスカは10人の子供達からシスカ母さん(フランシスカを縮小)と呼ばれていたため、客も自然にこう呼ぶようになったそうです。

ルイとアムステルダムへ遠出をしたフランシスカの目を引いたのが、四葉のクローバー型のゴーフルでした。さっそく5枚の葉の焼き型を注文、夫の作る生地で売りだしました。挽きたての粉で作るサクサクと軽いゴーフルは、その愛らしい形とともにフランダース地方で評判になりました。

ある時、このゴーフルを気に入ったアントワープの公証人が、わが子の誕生会を依頼しました。フランシスカは、木立が繁る店の広い庭にテーブルを並べ花も飾り、ゴーフルの他にルイの作ったバースデーケーキまで用意しました。さらに、オモチャや滑り台、ロバや子馬での散歩も企画しました。子沢山の彼女ならではの配慮です。その日の成功が口コミで広がり、高級住宅地という地の利も得て、その後は金持ちからの依頼が絶えませんでした。

彼女は顧客の求めているものを機敏に感じ取れる、今でいう“空気が読める”実業家肌の女性だったのでしょう。1904年当時の彼女の写真を見ると、水車を背にして片手をスカートの腰にあてた130キロはゆうに越す女性です。ギュッと引き締めた唇にその意思の強さが伺えます。それだからこそきつい仕事にも関らず、「シスカ母さんのゴーフル」の名前を残すことに成功したのだと思います。

フランシスカの後を継いだのが3女のマリーでした。第2次世界大戦後、建物をイギリス風コテージに建て直し、以後ここはマリー・シスカ(Marie Siska)と店の名前も変えました。

幸せを運ぶ5葉のクローバー

国鉄の駅からクノックのメインストリートの雑踏を抜けて右に曲がると、緑に囲まれた瀟洒な住宅が延々と続く一角に入ります。こんな高級住宅地にゴーフル屋があるのだろうかと心配しましたが、ありました。ホテル兼レストラン&ティールームのとても大きい白い建物です。その広大な敷地にはミニ・ゴルフ場やミニ・遊園地もあります。

現在のオーナー、4代目のステファン・ドッシュ氏(Stefan Dossche)が、快くゴーフルを焼く現場を見せてくれました。但しシスカ母さん伝来の生地の作り方は、門外不出なので聞くことはできませんでした。焼き型が並ぶキッチンで、ゴーフル作りの実演を見学しました。鉄の焼き型が5弁という以外は他のゴーフルと焼き方は同じですが、葉の周りを焦がさないタイミングなど職人の勘が必要なのでしょう。

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庭のテーブルに運ばれてきた大きなゴーフルを見て、一人で食べきれるかと懸念しましたが、空気のように軽い生地なので結局はペロリでした。ゴーフル自体に甘さが少ないため、カソナード(茶色の砂糖)や生クリーム、チョコレートなどをかけます。5弁のひとつを何もかけずに食べると、普通のゴーフルの食感を予想していたためか、その軽さに頼りなさを感じましたが、残りにはカソナードと生クリームをかけ、添えられた苺をつまみ至福の午後を過ごしました。尚、ゴーフルは13時30分からのティータイムのみです。

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