ブリオシュ

ブリオシュ [brioche]

ブリオシュ・ア・テト

ブリオシュ・ア・テト

シャラント風ブリオシュ 製作/藤森二郎氏

シャラント風ブリオシュ
製作/藤森二郎氏

仏和辞典を見ると、ブリオシュは(1)パンの1種である、と共に俗語では(2)へま、失敗と訳されています。faire une brioche「ブリオシュを作る」とは、なんであれ、ある過ちを犯すことを意味します。

この言い方は、1875年にオペラ座ができた時、オーケストラの団員たちが交わした約束事に端を発しています。団員たちは全体の調和を守らなかった者から罰金を徴収することにしていました。たまった罰金は定例会合の日に皆で食べるブリオシュを買うお金に当てられ、罰金を払わされた団員たちはブリオシュを示す徽章をボタン穴にさしました。これが世間に広まって、日常の会話の中で「あっ、間違えた」「へまをしてしまった」時、faire une briocheと言うようになったのだそうです。

ブリオシュという言葉が初めて使われたのは1404年あるいは1604年と各説にひらきがあります。その語源も長い間論争の的でした。ブリー・チーズで有名なBrie地方から来たという説にはマグロンヌ・トゥーサン=サマは断固として次のように反対しています。「アレクサンドル・デュマが「大料理事典」でなんと言おうとブリー・チーズはブリオシュとなんの関係もない。ブリオシュはバターで作られるのである」

同様にオリーブ油を使うラングドック地方の様々な菓子パンをブリオシュと呼ぶのも不自然だと憤慨しています。今日では、ノルマンディー地方の方言、粉砕するを意味する動詞“broyer”を語源とする説が有力です。その根拠はバターの品質がブリオシュの品質を決定し、ノルマンディー地方は中世以来最高級のバター産地として余りにも有名だからです。“oche”は”hocher”(揺り動かす)に由来すると考えられています。

17世紀ブリオシュがパリに登場し、19世紀以来、丸くて溝のついた、底が小さく、上部が広がった型で焼かれていましたが、最近では型を使わずにフラットに焼くシャラント風ブリオシュを見かけることが多くなりました。ブリオッシュは普通、朝食やお茶の時間にコーヒーやホット・チョコレートと共に食べます。英国人からするとブリオシュはパンというよりケーキ。マリー・アントワネットのあの余りにも有名な台詞“Qu’ils manget de la brioche”も英語では“Let them eat cake”と訳されています。

ブリオシュで一般的なのはブリオシュ・ア・テト[brioche à tâte](別名:ブリオシュ・パリジャンヌ[brioche parisienne])。上につけた小さい部分が tâte、頭に例えられています。リング状のものは、ブリオシュ・クーロンヌ[brioche couronne]、ブリオシュの王冠です。バターと小麦粉を同量使う上等の生地で作る円筒形のブリオシュはブリオシュ・ムスリーヌ[brioche mousseline]です。

参考文献:「ラルース料理百科事典」(三洋出版貿易株式会社)
Dictionnaire Français-Japonais de la CUISINE FRANÇAISE(三洋出版貿易株式会社)
「お菓子の歴史」マグロンヌ・トゥーサン=サマ著 吉田春美訳(河出書房新社)
Oxford Companion to Food, Alan Davidson[Oxford University Press:Oxford]1999(p.107)

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