第16回 「万宝珍書」にみるケーキの作り方

1873年(明治6年)、須藤時一郎という人が「万宝珍書」を著しました。

須藤時一郎は1863年(文久3年)、幕府の遣欧使節の池田筑後の守に随行してフランスに行き、ナポレオンIII世にも謁見したという人物でした。明治維新後は英語の教師を務めたり、東京府の代議士にもなっています。

百科辞典のような「万宝珍書」には“甘菓の製法”という項目があり、9種類の洋菓子の製法が記されています。

スポンジ・ビスキットの場合、

卵 黄12コ
グラニュー糖1斤半
卵 白12コ
レモン表皮2コ
小麦粉14オンス
グラニュー糖少 量

これらの西洋菓子は、須藤時一郎が海外滞在中、外国人から聞き書きしたもののようですが、予備知識がないと、説明を読むだけで焼き上げるのはなかなか難しそうです。

須藤時一郎が“甘菓の製法”を取り上げた背景には、幕末に海外を旅行して、ヨーロッパやアジア各国の人の肉体的な「強壮」さを実感したところにあったようです。「新しい発明」「難事業に挑む気力」も強い心身があればこそ。「食」の大切さを痛感したのです。栄養価の高い卵やバター、ミルクの摂取が強い日本人を育てるという信念から西洋菓子の作り方紹介にページを割いたのでしょう。

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