ハッセルとのスペキュラース(speculaas of Hasselt)
ベルギーの子供にとり12月はプレゼントを2回も貰える一年中で最も楽しい月。なぜならクリスマスの他にサン(聖)ニコラの日があるからです。
まるで盆と正月がいっぺんに来たように、子供の心がワクワクと弾む月なのです。その幸せの一端を担っているサンニコラからのプレゼントは、本やオモチャ、そしてスパイスたっぷりの甘いスペキュロース。
ベルギーの北東、オランダと国境を境にするキャンピンヌ地方のハッセルトに、ちょっと変わったスペキュロースがあると聞き訪れました。
キャンピンヌ地方
キャンピンヌ地方はフランダース地方と同じくフラマン語圏です。でも平らな土地のフランダースとは異なり、低いながらも丘があり、針葉樹の林や湖、広大な自然保護地区もあります。また昔は炭鉱業も盛んでした。
しかし砂や小石が多い地層のため酪農には適せず、中世からライ麦や大麦といった穀物の農作に従事していました。また、貧しい農民たちは、穀物とこの地方一帯のみに自生する薬草※を使い、「ジュニエーブル」というアルコールを密造していました。ジュニエーブル作りの廃物として出る糖蜜を使って、スペキュロースは作られます。
※くこの実。フランス語でジュニエーブル、英語はジェニパーベリー。ジュニエーブル酒はジンの元祖。ハッセルトでは毎年10月「ジュニエーブル祭り」を開催。その時噴水から噴き上がるのは何とジュニエーブル酒。もちろん無料で飲めます。
スペキュロースとは
スペキュロースの起源はパン・デエピス。これは古代ローマ人が神に捧げた菓子で、小麦粉にハチミツ、シナモン、サフランなどを入れて焼き上げた日持ちのするものでした。スペキュロースは、このパン・デエピスを薄く焼いたようなもので、文献によればネーデルランド地方(現ベルギーとオランダ)では14~15世紀ごろからスペキュロースが作られていました。
ハッセルトのスペキュラース
ハッセルトのホテル学校(製菓部門)でスペキュロース作りを見学しました。陽光が差し込む清潔な教室は甘い香りに満ちています。ところで、一般的に「スペキュロース」と呼ばれるビスケットを、ハッセルトの人は「スペキュラース」と呼び、スペキュロースというと必ず訂正されます。スペキュロースとスペキュラース。あ~、ややっこしいィ。
スペキュラースの材料は、小麦粉、バター、カンディーシュガー(精製していない茶色の砂糖とキャンディーシュガーを混ぜたエクストラ・ダークのもの)、卵、ミルク、シナモン、ベーキングソーダ、アルカリ(アンモニア)、塩、アーモンド。
作り方は混ぜるだけ。といっても順序があります。まず、カンディーシュガーとバターをよく混ぜ合わせる。そこへ小麦粉、シナモン、ベーキングソーダ、アルカリを合わせたものを加えて混ぜる。ミルクと卵液を別々に加え全てを混ぜ合わせる。生地をまとめ、直径3~4cmぐらいの棒状にする。それを約7センチの長さに切り分け、楕円形にまとめる。アーモンドを乗せ、210°で約15分焼く。
材料を混ぜ焼き上げるまで30分もかからない簡単さですが、先生がこだわっていたのは甘さと色のもとになるカンディーシュガーの「質」でした。しっとりとしたさわり心地。すくって落とすと、溜まった砂糖がサワサワとまるで動いているようです。「このような動きを作る重量感のある砂糖を使うのが、ハッセルトのスペキュラースたる由縁です」と先生。
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薄くてパリパリッとしたスペキュロースと、大きくて厚いスペキュラースを食べ比べました。前者はシナモン以外にナツメグ、クローブ、ジンジャー、カルダモン、胡椒入りなので香り高く、表面が艶やか。後者は割るとシナモンの香りがほんのりと漂い、艶はあまりありません。甘さはスペキュロースと比べとても控え目で、お菓子というよりは常備食的。それもそのはず、これは19世紀のベルギー独立戦争の時、ハッセルトのパン屋が兵士の食糧として作ったのが始まりでした。ですから当初はもっと硬くぼそぼそとしていたそうです。
「甘さ控えめでダイエットに良いかしら・・・。素朴で何となく懐かしい味、ポリポリボリ・・・」。気がつくとダイエットどころか、大きな小判型のスペキュラースは、すでに何枚もお腹のなかに納まっていました。結論としては、ブリュッセルのものが都会のお菓子なら、ハッセルト産はその素朴な味とひなびた甘さで田舎的。でもこれはこれで捨てがたい美味しさがあります。コーヒーのお供ですが、もしかしたらジュニエーブルとも相性がいいのかもしれません。