ベルギーの郷土菓子 11

ブリュッセルのゴーフルとキュベルドン(Gaufre de Bruxelles『Brusselse wafel』 & Cuberdons『Neuzen』)

photo:Tourist Office Ghent

photo:Tourist Office Ghent

ヨーロッパの暗黒時代といわれた中世が終わり、16世紀が幕を開けた1500年の2月24日、一人の男の子がゲントで産声をあげました。後のスペイン王カルロス一世(=神聖ローマ帝国皇帝カール五世)の誕生です。母方の祖父母はコロンブスのアメリカ大陸発見により新大陸を植民地としたスペイン王と女王。また父方の祖父が神聖ローマ帝国の皇帝というサラブレッドの家系に生まれたカール。戦いに明け暮れた58年間の生涯のスタートでした。その戦いの資源がフランドル地方のゲントやブルージュの織物産業の交易により得た富だったのです。

自慢のゴーフル

金の卵を生み続けていた町ゲント。当時の繁栄ぶりは、町の中心を流れるレイエ川にかかる聖ミヒエル橋の上から眺めると一目瞭然です。町の中心に目を向ければ、大聖堂と鐘楼、さらに聖ニコラ教会の3つの建物が一堂に会する圧倒的なパノラマが広がり、橋の欄干からはレイエ川両岸に並び建つ穀物倉やギルドハウスの華麗なファサードが見渡せます。この町は今でいうニューヨークやロンドンといった生き馬の目を抜く大都会でした。

この橋から歩いて数分のところにマックス(MAX)というゲント人自慢のゴーフル店があります。

ベルギーを代表する2大ゴーフルの一つ“ブリュッセル・ゴーフル”を初めて売り出したのがこの店。もう一つのゴーフルが日本で「ベルギーワッフル」として知られる“リエージュ・ゴーフル”です。でもゲント生まれのゴーフルをゲント・ゴーフルと命名せず、なぜブリュッセル・ゴーフルと呼んだのでしょうか?

「マックスは1856年以来、移動遊園地や縁日を巡業する露天の屋台でした。しかしただの屋台ではありません。お客様に屋台の内で食べて頂くため、しっかりした屋根を組み看板を掲げ、洒落たカーテンで飾ったドアをつけました。町から町へと巡回し、リンゴのベニエやクレープなどを売っていました。一番人気が雲のように軽い焼き上がりのゴーフルで、ネーミングは首都のブリュッセルにあやかりブリュッセル・ゴーフルとしました。それはそうでしょう。1千年の古都ブリュッセルならベルギー内外で知られていますが、ゲントとなると残念なことにそうはいきませんからね。商売の才に長けていた初代Max Consaelが考えたのがゴーフル型の改良でした。それまでの小さなゴーフル型を、正方形の等しい目をもつ特大のゴーフル型にしました。

今でも私が使っているMAXの刻印入のゴーフル型です」とイブさん。

初代の直系6代目にあたるイブさんが引き継いだ1980年以来、マックスは屋台ではなく店となりました。厨房にはゴーゴーと青い灯を燃やす立派なガス台があり、ずらりと並んだ巨大なゴーフル型の前でイブさんが額に汗し赤い頬をして大奮闘です。一枚のゴーフルを焼き上げるには重い型を何回も裏返す必要があるため気が抜けず、インタビューをするのも気がひけるぐらいでした。

もう一つのゲントの名物

ゲントの住人でテメルマンおばさんのボンボン屋を知らない人はもぐりでしょう。17世紀に建てられたバロック様式の家に初代のテメルマンさんがボンボン屋を開いたのが1904年。“7つのお慈悲の行い”が彫られたファサードはなかなか堂々としていて隣の建物と共に歴史的記念物に指定されています。一歩店に入ると、ガラスの容器に入った色とりどりのアメや優しく鼻をくすぐるビスケットの懐かしい匂い。そこはまるでレトロな駄菓子屋の世界でした。

店には小さな子供を連れた人ばかりでなく、大の大人もフラッと入ってきてアメ玉を何個か三角に折った紙袋に入れてもらい嬉しそうに出て行きます。スーパーでも見かけるアメ類もあるので聞くと「私のところの製品は昔ながらの製法を守っているので自然のものしか使いません。たとえば名物のキュベルドンはフランボワーズとお砂糖そしてアラビアゴムのみです」とキッパリ。着色料漬けのものと同じにしてすみません・・・。ちなみにアラビアゴムとは古代エジプトの時代から使われていたアカシアの木から分泌される松脂みたいなもので、ガムやワイン、錠剤などと幅広く使われ、光沢を出したり変色を防いだり芳香を安定させるものです。

名物にうまいものあり

お皿から溢れんばかりに大きいブリュッセル・ゴーフルはナイフとフォークで食べるのが常です。ここがリエージュ・ゴーフルとの大きな違いで、前者はどうしても座って食べることになり、後者は歩きながらでも食べられます。

粉砂糖がかかったゴーフルにサクサクとナイフを入れて一口。カリッとした食感は薄いかわらせんべいのようで、大きくても何枚でも食べられそう。甘くない生地は砂糖と溶かしバターを添えるのが定番でしたが、今はその代わりに果物や生クリームを添えるとのこと。

キュベルドンとはフラマン語で鼻という意味。イラストにも天狗の鼻のような赤い鼻の男性が描かれています。円錐の山のてっぺんをチョッとかじるとフランボワーズの味が口いっぱいに広がり、添加物なしのすっきりとした後味です。中身はグミ感覚のゼリーといった食感。甘いのでインパクトの強いコーヒーより、緑茶や紅茶のような飲み物の方がお互いの風味を活かし合いそうです。

タイトルとURLをコピーしました