ベルギーの郷土菓子 21 最終回
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知っていますか? 製菓原材料
宮崎真紀

(la tarte du Lothier)
 時は西暦800年12月25日クリスマス。フランク王カール大帝はこの日、法王レオ3世からローマ皇帝の称号を授けられ、名実ともに西ヨーロッパ全域を支配することになりました。かくも広大だった帝国は、彼の死後その子孫たちの間で分割相続されていきます。大帝の曾孫の一人ロテェール2世は、現在のオランダ、ベルギー、ドイツの一部、フランスのアルザス・ロレーヌ地方を譲り受け、その領土は「ロティエ公国」と呼ばれました。
時は流れ、領土は更に分割され、12世紀以来、北海のエスコー川からライン川の間の土地はブラバン公爵が治めるところとなりました。彼の領地ブラバン地方は、ナポレオン失脚の動機となったワーテルローの戦いの古戦場や、今年で860年を経たというヨーロッパ最大のシトー修道会僧院の廃墟が静かにたたずむヴィレルス・ラ・ヴィルなどを含む、中世以来、政治的にも宗教的にも歴史のページに頻繁に登場してきた地方です。

タルトとビールで町興し
 ブラバン地方の守護聖人祭には昔から必ず引き割り米のタルトが食卓を飾りました。今から35年前、ジュナップ町役場の観光課はこのタルトを町の特産品にする企画をたて、パン屋の4代目アンリー・アンドレ氏に美味しいタルト作りを依頼しました。そこで彼は、牛乳と砂糖それに引き割り米というシンプルだったアパレイユにビター・アーモンド粉を加えメリハリをつけ、アーモンドと相性の良いアプリコットジャムをタルト生地の上に薄く敷くなどを考案。新タルト・ロティエを誕生させました。
 ジュナップの町はブリュッセルの南方約40キロに位置し、12世紀にはブラバン公爵が城を建てたことでも分るように、中世はこの地方の中心でした。しかしその古城も今はなく、現在はブリュッセルなどの大都市の影に隠れひっそりとしています。これを憂いたジュナップの有識者たちが1990年「我ら由緒あるロティエの国の民なり」と宣言。歴史的建造物の調査や保護に乗り出すと同時に、内外へのアピールの手段として「タルト・ロティエ協会」を立ち上げました。
 サラリーマン、弁護士、パイロット、商人など約20人の男女で構成される協会は、ベルギー内外へのタルトの宣伝と地元菓子屋への奨励のため、アンドレ氏のレシピでタルトを作る菓子屋へ表彰状を贈ります。最高の3ツ星を得た優秀菓子屋を公表するとき、今では新聞社も駆けつけるほどのイベントになりました。協会が行う月1回の食べ比べはさながらミシュランのガイドブックのよう。覆面の会員が菓子屋でタルトを購入。菓子屋の名前を伏せて試食するのでもちろん審査員もどこの菓子屋かは分りません。判定の基準は、全体及びカットした時の断面の美しさ、引き割り米の煮方や分量、パイ皮の厚さや敷いてあるジャムの量、ビター・アーモンドのアロマと味など、プロ顔負けの厳しさです。

タルトの作り方
 ここ数年来3ツ星を取っているというゴシオ氏に実演をしてもらいました。
(1)ミルクを砂糖と共に沸騰させる。沸騰したら引き割り米をさらさらと加え、焦げないように絶えず木ベラで混ぜながら約2分煮る。バットに移し冷ます。
(2)生のアプリコットをフォークで潰し、ザルなどで水分を切ってから砂糖を足し軽く煮る。練りこみパイ生地を用意しておく。
(3)冷ました(1)にビター・アーモンドの粉と卵黄を加え全て混ぜる。そこに、砂糖を入れて8分立てにした卵白を加え合わせる。
(4)バターを薄く引いたタルト型にパイ生地を敷きこみ、アプリコットのコンポートを薄く延ばし、(3)をタップリと乗せ、220度で20〜25分焼く。
 ゴシオ氏の両親は代々がそうであったようにこの土地で酪農と農業を営んでおり、彼は9人兄弟の末っ子です。大家族のパンやケーキまでも作る肝っ玉母さんは、庭でとれるアプリコットで引き割り米のタルトを作っていたそうです。生粋のジュナップっ子のゴシオ氏にタルト・ロティエへの思いを聞きました。「僕は生れてからずっとこのタルトを食べていますが飽きません。アプリコットを使ったタルトは他にもいろいろありますが、引き割り米とアプリコットが奏でる味は、毎日でも食べたいと思わせる優しさがあります。次世代そしてもっと多くの人に知ってもらいたい素晴らしい郷土の菓子だと思います」。

三ツ星タルト

食べ比べてみると
 3ツ星と2ツ星の店のタルトを食べ比べてみました。3ツ星タルトはメレンゲを焼いたような滑らかな外見と同様、中身も軽くふんわりとした食感で甘さ控えめのジャムと調和して上品。一方、軽いけれどしっかりとした食感とすこし甘みが勝ったジャムの2ツ星タルトは素朴な味わいといえます。しかし見た目と食感に多少の違いがあるとはいえ、いずれも甲乙つけがたく、強いていえば、前者は朝食でもよさそうなのに比べ、後者は3時のおやつに合いそう。ジュナップの住人にもひいきはあるようで、星の結果がでると街角ではタルト論議に花が咲くそうです。

二つ星タルト